慢性腰痛におけるマッサージのエビデンス

腰痛持ちにとって、マッサージは気持ちがいいものです。また、ちまたの開業医では押したり揉んだりのマッサージ様のリハビリが盛んに行われています。実際にマッサージに治療効果があるのでしょうか? 

 

先日紹介した2004年の慢性腰痛ヨーロッパガイドラインでは、マッサージは勧められていませんでした。おそらくは良質なエビデンスが乏しかったためでしょう。今回、そのガイドラインを覆すマッサージのエビデンスがAnnals of Internal Medicine(2011Impact Factor16.733 )に出ていたので紹介します。

 

リラクセーションマッサージと、ストラクチュラルマッサージ(structural massage)の2種類のマッサージと、何もしない群の3群を比較しています。

・リラクセーションマッサージ: リラックスを目的として腰や臀部を押したり揉んだり揺すったりしたそうです。米国ではスウェディッシュマッサージと呼ばれ、マッサージ学校で必ず学ぶ、基本的なマッサージです。ちなみに米国のマッサージセラピストは公的資格で、資格のない人がマッサージ業をすると違法とのことでした。(Wikipedia英語版より)

・ストラクチュラルマッサージ(structural massage): どうやら傷んだ筋膜を同定し、筋膜を伸ばす事により拘縮を解除するアプローチで、タイ古式マッサージに似た手法、と書いてありました。日本にはあまりないタイプのマッサージのようですが、整体がもっとも近いかも知れません。

・通常治療群: 特に何も治療を受けていません。

 

結果、マッサージは両群とも通常治療群より、10週の時点で腰痛関連機能障害(RDQ)、症状(symptom botherness score)において効果があり。リラクセーションマッサージはRDQに対し少なくとも6ヶ月間効果があったとの事でした。あなどれませんね。


      Ann Intern Med. 2011 Jul 5;155(1):1-9.

A comparison of the effects of 2 types of massage and usual care on chronic low back pain: a randomized, controlled trial.

Cherkin DC, Sherman KJ, Kahn J, Wellman R, Cook AJ, Johnson E, Erro J, Delaney K, Deyo RA.

Source

Group Health Research Institute, Seattle, Washington 98101, USA.

 

要約

背景: 慢性腰痛症に対するマッサージ治療の効果を調べた研究は殆ど行われていない。

目的: 慢性腰痛症の治療に対する2種類のマッサージの効果を比較検討する。

デザイン: parallel group(クロスオーバーではない,一般的な試験デザイン)の無作為化比較試験。コンピューターによるランダム化。割り付け情報をセンターに集約し管理した。被験者はマッサージの種類は盲検化したが、通常治療は盲検化されていない。治療者も盲検化されていない。評価は盲検化して行った。

設定:Group Health Cooperative 医療保険会社

患者: 非特異的腰痛を呈する20-65才の401名。

介入: 構造的マッサージ(structural massage132, relaxation massage136, 通常の保存治療133

測定: Roland Disability Questionnaire (RDQ)による腰椎関連機能障害, symptom bothersomeness score(SBS、症状の煩わしさ、バリデーション有り).10週時点をプライマリアウトカム、26週、52週をセカンドアウトカムとした。RDQでは2.5点以上を、SBSでは1.5点以上の差を有意とした。

結果: マッサージの2群は10週時点で同じような機能予後の成績だった。補正後の平均RDQは、通常治療群に比べ、relaxation massage群で2.9点、構造的マッサージ群で1.4点低かった。リラクセーションマッサージ群の効果(機能低下に対するもの。少女ではない。)は52週でも持続していたが、有意差はなかった。

リミテーション: 盲検化されていない。

結語: マッサージ療法は慢性腰痛に有効で、効果は6ヶ月持続する。 構造的マッサージとリラクセーションマッサージとの間に差はない。

 

民間保険会社が、米国国立補完代替医療センターのグラントを得て行った。

 

 

 

 

 

本文

頚部痛、腰部痛に対するマッサージは一般的な治療法だ。 3分の一の患者は、アメリカ全体で年間1億回の定期的なマッサージを受けている。

ほぼすべてのセラピストはリラックスの為にスウェディッシュマッサージを行う。少数派、構造的マッサージを行う。

どちらが良いか、エビデンスはないため、今回の試験を計画した。

方法

保険グループの雑誌に広告を載せ、メンバーに手紙を送った。 インクルージョンクライテリアは、3ヶ月以上の腰痛が続き、pain bothersomeness10点満点中3点以上。除外基準は、癌、骨折など原因がわかっている腰痛を除外。坐骨神経痛、手術や、法的問題の絡んだ症例を電話面談で除外。麻痺や精神疾患を除外。疼痛に関連する合併症のある患者(線維筋痛症、リウマチ)等を除外した。残りをランダム化して割りつけてた。

ランダム化

ランダム化は、生物統計学者が行い、セラピストも割り付けられた。割り付けはセンターでまとめて行い、秘匿された。

介入

5年以上の経験のある資格を持ったマッサージ師27名が行った。セラピストの店で無料で行った。週一回、10回の治療を予定した。 初回は75-90分、2回目以降は50-60分行った。8回以上行ったものを、治療完了とした。

 リラクセーションマッサージは、リラックス気分を高めるために、なでて、もんで、まわして、揺すって、rocking and jostling(バイブレーションの変法)を行った。

 ストラクチュラルマッサージは、拘縮した筋膜を同定して、そこを伸ばして拘縮を解除し、バランスを取る方法です。治療の場所は患者によって異なる。

 通常治療群は特に治療を受けず、50ドルのみ報酬として受け取った。

評価項目とフォローアップ

10週、26週、52週に評価。 10週の、治療直後の腰痛関連障害をプライマリーアウトカムとした。RDQを用いた。 

  症状は、BSS10点満点で評価した。

セカンダリアウトカムは、 1. 26週、52週のRDQと、BSS。 

2. 臨床的に意味のあるRDQの低下(3点以上)、BSSの低下(2点以上)を示した患者の割合。

3. SF-12ヘルスサーベイ による、身体と心の健康の評価。

4. 自己申告による、過去1週間に使用した薬剤の量。

5. 過去1週間の腰痛による床上安静、日常生活の妨げとなったか。

6. 腰痛による日常生活の機能障害の改善度合い(完璧に良くなったー悪くなった まで 7段階。)

7. 残りの人生を腰痛と過ごすことに対する患者の印象(最悪から、希望するまで、7段階。)

8. 腰痛治療に対するリッカート尺度。全く満足していないから、非常に満足しているまで、5段階。

9. 腰痛に関連した受診、画像検査、投薬の総費用。電子カルテの記録に基づく。保険外のものは、インタビューで調査。

最後に、マッサージ治療の副作用に関するオープンエンドの質問

 統計

サンプルサイズ

92例のパイロットスタディ。 RDQSBSSDを算出し、85%の統計力で、399例必要と算出。

いわゆるインテンショントゥートリート解析で、脱落例を含めて解析した。

アウトカムは、generalized estimating equation一般化推定方程式、一般線形モデルの反復測定バージョン)で、複数の要因で補正し、解析した。

ベースラインで、インバランスだったもの、アウトカムと実際に相関した値を、共変量に含んだ。(テーブル2の9因子) 

連続数、2項値に関し、ポアソン回帰分析(多変量解析の一つ。 病気の発生率をアウトカムとする時。感染の回数をアウトカムとする時。 あるなしはロジスティク回帰。 死亡までの期間はコックス比例ハザード。

を行った。

多重比較は、LSDleast-significant-difference)で補正した。

セラピスト内の効果の一致は、mixed-effects model(混合モデル)を用いた。セラピスト間の効果の差は、級内相関係数(Intraclass Correlation CoefficientICC 0に近いほど差がない。1もしくは-1に近いほど一致している。差がある) で確認した.

 結果

Fig19127人に招待状を送り、1161人から返信があった。402名が基準を満たし、ランダム化に参加した。1名は腹部大動脈瘤が発覚しため、ランダム化の後に除外された。概ね90%をフォローアップできた。治療に対するアドヒアランスは、ストラクチュラルマッサージで88%、リラクセーションマッサージで93%だった。

テーブル1。 ベースラインデータは様々な項目のデータをとった。インバランスだった項目、プライマリーアウトカムに相関した項目を補正のための共変量に用いた。

Eg.年代 性別、初回RDQ,初回SBS、原因不明の腰痛、教育、BMI、肉体労働、休業日数、内服治療の有無。

FIG2 通常治療群両方のマッサージとも、10週時点で機能、症状ともに改善していたが、マッサージはコントロールに比べより良好に改善していた。

10週では、機能、症状ともに両群のマッサージで有意に改善していた。26週では、機能のみマッサージ群で改善。52週ではリラクセーションマッサージのみわずかに改善していた。

臨床的に意味のあるRDQの低下(3点以上)、BSSの低下(2点以上)

10週で、マッサージは62-65%の、通常治療群は33%に意味のある改善を認めた。 マッサージの効果は徐々に減り、52週の時点では差がなかった。

セカンダリアウトカム

活動性、NSAID使用量、腰痛への満足度、治療への満足度、めんたるヘルスにおいて、マッサージ群で良好な成績であった。 36-39%のマッサージ群の患者が痛みが全くなくなった、大幅に改善したのに対し、通常治療群では4%のみであった。

級内相関係数は0,007で、セラピスト間のばらつきは、RDQのばらつきと比るとほとんど認められなかった。

 同時に行った治療

33%の通常治療群、18-20%のマッサージ群は何らかの治療を受けた。

通常治療群の8%はマッサージに行った。

52週までに、通常治療群の2名、ストラクチュラルマッサージ群の1名が脊椎手術を受けた。

 医療費

マッサージ治療の費用は$540に相当した。腰痛に関連する1年間の治療費は、通常治療$25、リラクセーションマッサージ$78、ストラクチュラルマッサージは$38だった。医療費削減効果はなかった。

 副作用

リラクセーションの4%、ストラクチュラルの7%が痛みの増強等の副作用を訴えた。ストラクチュラルマッサージの1例は嘔気、息切れ、胸痛を訴え、重度の事象がと考えられたが、マッサージとは関連が薄いと考えられた。

 考察

マッサージは10週時点で効果あり。

一般的なマッサージの学校で教えられるリラクセーションマッサージは、より専門性が高いとされるストラクチュラルマッサージと同等の効果であった。26週時点まで効果があったが、52週の効果は微妙なところだ。セラピスト間の効果の違いはなかった。副作用は少なかった。

これまで15件の慢性腰痛に対するマッサージ治療のトライアルがあった。4つの北米でのトライアルはストラクチュラルマッサージに近いもので(タイ古式マッサージ、中国マッサージ)、結果は良かった。リラクセーションのトライアルはこれまでなかった。ストラクチュラルマッサージの作用機序は未だ不明である。これら2つの一見異なったマッサージ法は、似たような心理的な効果をもたらす。例えは、局所的な刺激や、中枢神経の反射を介して。 

リラックスした環境で時間を過ごしたことや、触られること、セラピストの治療を受けられること、生活指導を受けられること、身体意識が増えることなどの非特異的な理由で効果があったかもしれない。

 リミテーションとして、治療がブラインド化されておらず、通常治療群はがっかりして低い評価をしたかもしれない。

椎間板ヘルニアの様なストラクチュラルマッサージの効果が出るような患者は除外されている。

 結論

リラクセーションマッサージもストラクチュラルマッサージも慢性腰痛の治療の有効なオプションになる。リラクセーションマッサージのほうがどのセラピストでもできるためアクセスが容易で若干安いため、有利だ。

 

 

自己紹介

飛田 哲朗 Tetsuro Hida

名古屋市

脊椎外科医の仕事の傍ら、サルコペニアの研究をしています。

 

 

好きなテレビ:

未来世紀ジパング

 

池上彰さんが出る回とか、最高ですね。テレ東経済番組の面白さは安定してます。

 

好きな映画:

アメリカのSF映画。遺伝子エリートと雑草魂の葛藤がたまりません。同じアンドリュー・ニコル監督の「In Time(タイム)」もいいですね。

 

息子の難病の治療法を開発してしまう銀行家の父の、実話を元にした物語。熱意と戦略がそろえば誰でも病気を治せる可能性があるんですね。

Follow-up of 89 asymptomatic patients with adrenoleukodystrophy treated with Lorenzo's oil

論文のラストオーサーが父親。

 

好きな飲み物:


最近は第3のビールの美味しさにおどろいています。

 

 

 

リンク

朝日新聞、 「筋肉少なく肥満、高齢者の1割 名大、北海道の323人分析」(平成26年6月3日夕刊)

八雲町での疫学調査を取り上げていただきました。

名古屋テレビ UP! 注目ニュース「サルコペニア肥満」

2013年8月2日に放送された内容です。僕の研究を取り上げていただきました。とてもわかりやすくまとまっています。

 

リハビリテーション栄養・サルコペニア(筋減弱症)

サルコペニアのエビデンスが集積しています。勉強になります。

 

整形外科 論文ナナメ読み (JBJSなどなど)

JBJSの要約がまめに更新されています。抄読会のネタ探しにぴったりです。

整形外科医のための英語ペラペラ道場

英語論文を書く際の道しるべです。