2016-10-30
新たな側弯症に対する治療法の論文を紹介します。Anterior vertebral body tethering(前方VBT、前方椎体テザリング)は米国やカナダで少しづつ行われつつある方法です。とはいえFDA未認可であり、まだ一般的な手術法では無いようです。
特徴
・思春期特発性側弯症、35度ー60度、Risser0-1程度の骨未成熟患者が適応。
・固定をしない、可動域が保たれる
・胸腔鏡を用いたMIS(最小侵襲手術)
・成長に従って、さらなる矯正が得られる。
問題点としては、
・過矯正が起きうる。(10-15%)
・臨床データが乏しく効果が予想できない。
・FDA未認可
少なくとも、1年後の成績は良好と報告されています。長期成績はまだ不明など問題点はありますが、将来的には装具治療や矯正固定術に変わる治療オプションになるかも知れません。
注) FDA; アメリカ食品医薬品局、日本でいう厚労省のような機関
Anterior vertebral body tethering for immature adolescent idiopathic scoliosis: one-year results on the first 32 patients
Amer F. Samdani, et al. Eur Spine J (2015) 24:1533–1539
【要約】
目的:後ろ向き研究で、前方椎体テザリング法(VBT)の術後1年臨床および画像評価の手術成績を調査する。 前方VBTは思春期特発性側弯症(AIS)のうち 骨の発達が未成熟な患者に対する骨癒合を行わない治療オプションである。本法は成長により矯正する技術で、患者の成長によってより側弯を矯正する。数々の動物実験で成果が確かめられているが、臨床データは乏しい。
方法: 胸椎VBTを受けた患者の内、1年以上のフォローを受けた32名の患者を対象として、臨床および画像データを後ろ向きに検討した。
結果:1年以上フォローした胸椎カーブの思春期特発性側弯症患者は32名(女性72%)であった。手術時の平均年齢は12才であった。全患者の骨成長は未成熟で、平均のRisser スコアは0.42、平均のSandersスコアは3.2であった。患者は平均7.7椎体(7−11) のテザリングを行った。平均出血量は100ml。術前のメインカーブは42.8° ± 8.0° 、術直後 21.0° ± 8.5°、最終時は17.9° ± 11.4°だった。腰椎カーブは術前 25.2° ± 7.3°で、術後に徐々に矯正され、直後は18.0° ± 7.1°、一年後は12.6° ± 9.4°だった( p < 0.00001). 胸椎のローテーションは、術前13.4度、術後最終計測時が7.4度だった( p < 0.00001)。1名の患者に無気肺が起き気管支鏡の治療を受けたが、他に重篤な合併症は無かった。
結語:前方VBTは 骨成長の未熟な思春期特発性側弯症に対する安全で有効な可能性のある治療法と考えられた。しかしながらより長期のフォローが本法の本当の有効性を見るために必要であろう。
【本文】
背景 骨成熟が未熟な、20−40度の胸椎カーブのAISは、胸腰仙椎装具(TLSO)である。近年完了したBrAIST研究では装具は50度以下にカーブの進行を抑えるのに有効であるとした。しかしいくつかの研究では装具治療の成功率に疑問があるとし、ボディイメージに関する精神的問題を引き起こす。こちらは場合によってはカーブそのものよりも重篤かもしれない。
多くの側弯は、特に若い患者にとっては、最終的には進行して外科的に矯正固定術が必要となるかも知れない。Charles らは思春期発生の21−30度の側弯の内75%が、30度以上は100%が最終的に手術を要したと報告した。しかし、矯正固定術には多くの問題がある。成長の阻害、隣接椎の障害、ROMの低下、脊椎可動性の低下である。これら装具や矯正固定術の問題をふまえ、脊椎の成長を調整し、カーブの進行を抑える治療を模索してきた。
バイオメカの研究で、柔軟なテザリングの効果が動物モデルで示されていた。近年、Newtonらは未成熟なブタモデルで柔軟なポリエチレンの前方テザリングによって脊椎を変形させ側弯を発生すると報告した。思春期の成長期と似ているとされる12匹のミニブタ椎間板は正常に保たれ、軸方向の成長は最大化されていた。Braunらは羊モデルでも同様の結果を報告した。しかし、臨床成績の報告は少なく、一件のケースレポートが有るのみだ(Crawford CH 3rd, Lenke LG 2010)。この症例では40度のカーブが8度に改善した。(直後は25度)本研究の目的はVBTの一年成績を示すことである。
【術式】
患者は側臥位で、凸側を上にして(全例右を上)術台に固定した。3つの5mmのポートを前腋窩線肋間から挿入し、カーブの矯正範囲を確認した。5mm30度斜視鏡を入れ、超音波メスを使用し、内視鏡用ピーナッツ(綿棒)を使用した。胸膜は肋骨頭の前方で切開した。固定範囲内の椎体すべてで行った。高位はC-armで確認した。
その後、文節動脈を同定して、焼灼して切離した。椎間板を損傷しないように注意した。15mmのポートを挿入して、最も頭側の椎体を確認した。最初に3-prongのステープル(スクリュー刺入による椎体破断の予防のため)を椎体前方寄り、肋骨頭のすぐとなりに設置した。椎間孔内に迷入しないように注意した。ステープルの位置を透視で確認した後、スクリュー孔を5.2mmでタップした。Zimmer Dynesys screw (size 5.2, 6.0, 6.4 mm)を挿入し、透視で確認。L3スクリューは、後腹膜アプローチを用いた。スクリューは頭側から尾側まで連続して挿入した。15mmポートは同じ皮切を用いて、尾側に移動させた。通常、1皮切で3肋間の操作を行うことが出来る。テザリングは尾側の15mmポートからスクリューのチューリップヘッドに通した。Tハンドルプッシャーを設置し、セットスクリューを設置した。整復はテザリングのテンションと脊椎の移動で行った。全体を透視で矯正位とスクリューの緩みなきことを確認した。
次いで、余ったテザリングの紐を2cm余らせて切った(さらなる調整のため。)。胸膜をためしに引き寄せてみるが、大体は難しくてできない。胸腔ドレンを留置。洗浄後肺を再膨隆させ閉創した。当初の10症例は6ヶ月間装具をた。残りの症例は3ヶ月の装具とした。現在は1ヶ月のみにしている。
【結果】
【手術】
1年以上フォローした胸椎カーブの思春期特発性側弯症患者は32名(女性72%)であった。手術時の平均年齢は12才であった。
患者は平均7.7椎体(7−11) のテザリングを行った。平均出血量は164ml、1名は950mlで、分節動脈から出血し、輸血を要した。。平均手術室滞在時間は286分。最初の16例は320分、後半は262分と減少した。脊髄モニタリングを使用したが、異常は起きなかった。
【画像所見】
術前のメインカーブは42.8° ± 8.0° 、術直後 21.0° ± 8.5°、最終時は17.9° ± 11.4°だった。腰椎カーブは術前 25.2° ± 7.3°で、術後に徐々に矯正され、直後は18.0° ± 7.1°、一年後は12.6° ± 9.4°だった( p < 0.00001). 4名の患者は10度以上術後からさらに矯正が進んだ。2名は6度と9度の過矯正になった。テザリングを緩める説明を行った。9名は5−10度の矯正、18名は不変だった。平均risserは1.7で、その為さらなる成長により矯正される可能性がある。一名の患者は7度の矯正損失があった。
1名の患者は40度のときに手術を計画したが、手術時に66度に進行しており通常のテザリングの適応外であった。慎重に話し合いテザリングを行い、現在40度であり今後も改善する可能性がある。
【サジタルアライメント】
胸椎後弯は術前27.3° ± 12.5、術直後 23.5° ± 12.6°、最終は 28.8° ± 11.8°だった。腰椎前弯は49.6° ± 7.9°で最終は51.7° ± 8.5°と安定していた。
【ローテーション 】
scoliometer。胸郭のローテーションは、術前13.4度、術後最終計測時が7.4度だった( p < 0.00001)。
術前は28名(8名)が10度以上のハンプがあったが、最終時は9名(28名)のみだった。
【バランス】
コロナルのc7プラムライン?は術前1.3cm、1年後1.0cm。svaは術前2.6cm、術後2.2cm
【合併症】
過矯正は3名にあった。2名は5−10度、1名は13度。
1名の患者に無気肺が起き気管支鏡の治療を受けたが、他に重篤な合併症は無かった。
【考察】
本研究で、骨成長未成熟の胸椎カーブの思春期特発性側弯症患者に対する前方VBTの短期間の安全性と有効性が示された。コロナルカーブは改善し、大きな合併症はなく、ハンプと後弯は改善した。
これまで臨床報告は少ない。 Crawford and Lenke は5年間の間矯正効果が続いた症例報告をした。Braun らはVBTと椎体間ステープルを比較し、1年後の経過でVBTの方が矯正効果があるとした。本研究は少し数が多い報告になる。
症例報告と同様に、年齢とともに矯正がすすんだ。ハンプは50%改善した。コロナルを改善するとアキシャルも改善する。もし後方にスクリューを設置すれば、よりローテーションを矯正できる。 もしハンプが20度以上の場合、あまり矯正できないためVBTは勧めない。
【適応】35度−60度のカーブ。50%の柔軟性、40度以下の後弯。椎体のサイズのため年齢は10歳以上としている。この手法は10−15%の過矯正を起こしうるため、術前の説明が必要だ。経験を積むにつれ、どの程度矯正すれば架橋性を防げるか分かってきた。
本研究の対象外ではあったが、2名の症例はテザリングを調整するための再手術を受けた。胸腔鏡でテザリングを緩めた。術後3日で退院した。 後彎進行はなかったが、慎重にフォローする必要がある。
【リミテーション】
適応外使用であり、FDAは前向き研究を認めていない。フォローアップはほぼ100%だ。対照群は、40℃未満の装具群か、50度以上、骨成熟した固定群になる。平均43度を対象としており、どちらも対象としてはいまいち。呼吸機能検査を行っていない。今後はmriと呼吸機能検査を行いたい。運動機能検査を行っていないが、活動性は術前に戻っている。
長期フォローが必要、テザリングの破綻もありうる。
注) tether = つなぐ
注) Sandersスコア 手のレントゲンによる骨端線による骨成長評価法。Stage1-7。
J Bone Joint Surg Am. 2008 Mar;90(3):540-53. doi: 10.2106/JBJS.G.00004.
Predicting scoliosis progression from skeletal maturity: a simplified classification during adolescence.
参考URL
2016-10-30