以前腰部脊柱管狭窄症の有病率を調査したROAD studyの論文を紹介しました。今回は、同じstudyから、頚椎での脊髄圧迫所見を調査した論文を下記に引用します。
無症候かどうかは論文からはわかりませんが、地域住民の頚髄圧迫の有病率が20%以上というのは、案外多いと感じる方が多いかもしれません。逆にMRIでの軽微な頚髄圧迫所見は、あまり特異的なものではないとも言えます。気をつけましょう。
Prevalence of Cervical Cord Compression and Its Association With Physical Performance in a Population-Based Cohort in Japan
The Wakayama Spine Study
K Nagata , et al.
SPINE Volume 37, Number 22, pp 1892–1898, 2012
要約
デザイン:頚椎MRIを用いた疫学調査
目的:本研究は頚髄症の頚髄圧迫(CCC)と、頚髄圧迫と運動機能の関係を地域在住住民コホートで研究することである。
背景: 頚髄圧迫の有病率はこれまで不明で、さらにゆっくり進行するため発症時期を特定することがこれまでは困難であった。
方法:本研究はROADstudyの一環として行われた。 1011人の住民がMRIを受け、977人(男性324人、女性653人平均年齢66.4歳)のMRIを評価した。頚髄圧迫は、t2サジタル像で評価した。頚髄圧迫の有病率と脊髄症による所見(膝蓋腱反射の亢進、Hoffman、Babinski徴候)を検査した。さらに、運動機能測定(グリップアンドリリーステスト、握力、6m歩行テスト、起立時間、片脚立位時間)を検査した。
結果: 頚髄圧迫の有病率は男女共に高齢になるにつれ高率になった。頚髄圧迫は、マイエロパチーサインとは関連せず、グリップアンドリリーステスト、6m歩行時間、歩幅、起立時間と関連した。
全患者のうち、CCCの有病率は24.4%だった。男性29.3%、女性21.9%。有意に男性で有病率が高かった。80歳以上では、半分近くに脊髄圧迫所見が認められた。 χ二乗テストでは高齢者で有意に有病率が高かった。 Grade3以上の脊髄圧迫は男性で5.9%、女性で2.6%だった。Grade4以上の参加者はいなかった。
各椎間毎の脊髄圧迫: C5/6に男女とも多く、ついでC4/5、C6/7に多かった。
脊髄圧迫群は優位に年齢が高かったが、膝蓋腱反射、ホフマン反射は圧迫がない患者と差が無かった。
何らかの脊髄症所見あり CCC群 男性3.2% 女性16.1%
しかし、男性では脊髄症所見と、CCC有無に差がなかった。 女性では、Babinski反射飲み脊髄圧迫群で、より高率だった。 身体機能は、男女共に全般にCCC群で低かった。
そこで、脊髄圧迫の有無を目的変数とし、年齢、性別、BMIを共変量とし、各身体機能評価ごとに別々のモデルで多変量解析を行なった。 握力、6m通常歩行速度、片脚起立以外は、有意な因子だった。
(結果には無いが、ディスカッションでは異常反射にも多変量解析を行ったが、有意な因子は無かったと書いてある。)