昨今、脊椎外科分野においても内視鏡を始めとした低侵襲の手術手技が注目されています。
脊椎変形の分野では、lateral Interbody fusion(LIF, 商品名はXLIFやOLIF)と呼ばれる低侵襲の側方侵入後腹膜アプローチによる前方矯正固定術が注目されています。ただし、ケージの角度は最大10度で、矯正角は限定されていました。
今回紹介する論文は、前縦靭帯(ALL)を切離することにより30度のケージ(XLIF ACR, Nuvasive社)を挿入する事が出来るようにする、anterir column realignment (ACR)と呼ばれる手技の予備的な報告です。Nuvasive社のCOIあり、です。
PSO同様に合併症率は高い(43%)ものの、PSOと遜色ない前弯角を獲得できたとのことです。日本にも導入予定ありとのこと。
J Spinal Disord Tech.
2014 Feb;27(1):29-39. doi: 10.1097/BSD.0b013e318287bdc1.
Anterior column realignment (ACR) for focal kyphotic spinal deformity using a lateral transpsoas approach and ALL release.
Akbarnia, et al.
【要約】
デザイン:後ろ向き研究
背景: サジタルバランスは脊柱変形の長期成績に重要である。
方法: ACRを行った患者の臨床、画像評価。
結果: 17名の連続した患者(女性12名、男性5名、平均年齢63歳(33-76歳))を平均2年(12ヶ月—82ヶ月)フォローアップした。17名(82%)は脊椎手術の既往があった。12名(71%)は固定術の手術歴の既往があった。
15名(88%)はSPOを行った。Motion segment angle(MSA、1椎間の後弯角)は、術前9度、。ACR後-19度、後方固定後-26度、最終フォロー時-23度だった。腰椎前弯角(LL)は、術前-16度、。ACR後-38度、後方固定後-45度、最終フォロー時-51度だった。骨盤傾斜角(PT)は、術前34度、ACRと後方固定後24度、最終フォロー時25度だった。
術前T1SPIがマイナス(後傾)の患者は、術前-6度から-2度に改善した。術前T1SPIがプラス(前傾)の患者は、術前5度から-3度に改善した。8名(43%)の患者に10件の合併症が起きた。4件はACR後に発生した。2件は神経障害(1件は永続的)、1件は前方プレート抜釘時の血管損傷だった。
結語: 局所的な脊柱後弯変形に対する後方矯正固定と比較して、我々の予備的な研究の結果からACRは同等の強制力と合併症の発生率であった。良い結果を得るには慎重な症例選択、手技、経験が必要である。
【本文】
矢状面バランスを得ることは成人脊柱変形の治療において重要である。前傾した匙たるバランスが健康に悪影響をおよぼすことが報告されている。さらに、spinopelvicハーモーニーは健康関連QOLに直接的に影響する。伝統的には、SPO,PSO、VCRといった後方矯正固定が行われてきた。矯正は出来るものの、手術時間が長く神経合併症が多く、出血量が多く、合併症が多かった。 SPOの28%、VCRは61%の合併症が報告されている。
LIFは現在様々な脊椎疾患に対して行われており、合併症が少なく回復期間が短縮される。これまでのLIFアプローチでの矯正は、ALLによるところが大きかった。リガメントタキシスによる矯正と、移植物の脱転予防の役割を果たしていた。しかし、サジタルバランスの矯正においては阻害要素の一つであった。 矯正におけるALLのリリースは決して新しい方法ではない。我々は局所的な後湾に対する少侵襲側方アプローチによるACRの手技を報告する。
【方法】
2005年から2011年、17名の連続したACRを行った患者を対象とする。全例後方固定を併用した。術前後のレントゲン、椎体間角(MSA, motion segment angle)、椎間板角(IDA, intradiscal angle)を検討した。
【手術方法】 Fig1
手術台を曲げすぎて、大腰筋にと神経叢にテンションが掛かりすぎないように気をつける。
椎体前方に特殊なレトラクターを掛ける。椎間板切除を行う。ALLと残った椎間板を鋭的に切離する、もしくは術者の好みの方法で処理する。パドルディストラクターで十分な椎間板切除とALLリリースを行う。もしテンションがきついと感じたら、ALLが残っていないか、対側の椎間板が残っていないか、後方の椎間板のリリースが不十分でないのか検討する。
トライアル後、20-30度のケージをリトラクターのレールに沿って挿入する。頭側のフリンジに螺子を入れ、脱転予防とする。尾側はPSの邪魔になる。
大腰筋に設置したブレードによる障害を防ぐため、頭尾側は椎間板が見えるのみに開き、トライアルやインプラントを入れる際のみ大きく開くようにする。
【結果】
17名の連続した患者(女性12名、男性5名、平均年齢63歳(33-76歳))を平均2年(12ヶ月—82ヶ月)フォローアップした。17名(82%)は脊椎手術の既往があった。12名(71%)は固定術の手術歴の既往があった。
15名(88%)はSPOを行った。Motion segment angle(MSA、1椎間の後弯角)は、術前9度、。ACR後-19度、後方固定後-26度、最終フォロー時-23度だった。腰椎前弯角(LL)は、術前-16度、。ACR後-38度、後方固定後-45度、最終フォロー時-51度だった。骨盤傾斜角(PT)は、術前34度、ACRと後方固定後24度、最終フォロー時25度だった。
術前T1SPIがマイナス(後傾)の患者は、術前-6度から-2度に改善した。術前T1SPIがプラス(前傾)の患者は、術前5度から-3度に改善した。
SRS-22スコアは術後に改善した。
Fig2 71歳女性。 39度の側弯。LL2度後弯、PT30度、PI42度、SVA100mm、T1SPI+3度。 術後、6度の側弯、LL-68度、PT10度、SVA0mm、T1SPI-3度。20度のケージ。 MSAとIDAの前弯化を認める。 椎体形成?
【合併症】
8名(43%)の患者に10件の合併症が起きた。4件はACR後に発生した。2件は神経障害(1件は永続的)、1件は前方プレート抜釘時の血管損傷だった。
【考察】
後方矯正の成績はまま報告されており、34%に合併症が起きるとする報告や、PSOで38%、VCRで22%の合併症が起きると報告もされている。
リスク因子は、60歳以上、SVA>40mm, 3つ以上の内科合併症である。ACRの合併症と大きな違いはない。
出血量はACR111ml+後方1484mlだったので、従来の後方法2−3000mlより少ない。MSAはACR単独で28度、後方併用で37度改善していてPSOと遜色ない。
選択基準は、局所的な柔らかい後弯である。避けたほうがよい症例は血管のアノマリー、大動脈石灰化、後腹膜感染の既往、線維化、前方・後腹膜脊椎手術の既往。
癒合した後弯は相対的な禁忌である。 後方要素が癒合していたらACRの前に骨切りが必要になる。
合併症はL4/5が多い傾向にあり注意が必要。
【結語】 ACRは、侵襲の少ないサジタルの変形治療に有効と信じている。後方単独と比較して、矯正力は同等で、合併症も同等である。症例を選択し、とくに局所の後弯や、隣接椎間の変形に有用と考えている。LIFのアプローチと変形矯正に習熟した術者が行う必要がある。
2017-03-09