2012-11-07
MRIをとると、ほとんど症状が無いような患者さんでも、severeな狭窄があってびっくりすることがあります。では、画像所見のみの無症状の腰部脊柱管狭窄症はいったいどのくらいの割合なのでしょうか?
世界最大規模のコホート研究であるROAD study(東京大学)からのspin-out研究(和歌山大学)を紹介します。トレーラーの荷台に据え付けた移動MRIを用いた、千人以上の大規模スタディ、さぞかし大変だったのでしょう。
本研究によると、平均年齢66才の住民コホートにおいて、MRI画像上の脊柱管狭窄(中心部、中等度以上)は、全体の76.5%、症候性腰部脊柱管狭窄症(画像上の狭窄と症状の双方を有する患者)は、全体の10.1%でした。すなわち、高齢者の8割近くがMRIで中等度以上の狭窄を有することになります。しかも、その殆どは無症状の狭窄です。
腰部脊柱管狭窄症は、画像所見のみでは診断できません。ましてや、手術適応、手術の高位は決定できません。病歴、症状、身体所見と画像所見が矛盾しないか、狭窄以外の原因が隠れていないか、脊椎外科医の能力にかかっています。
Prevalence of symptomatic lumbar spinal stenosis and its association with physical performance in a population-based cohort in Japan: the Wakayama Spine Study.
Ishimoto Y, Yoshimura N, et al.
Osteoarthritis Cartilage. 2012
日本の地域在住コホートにおける有症状の腰部脊柱管狭窄症の有病率と身体機能の関連。Wakayama Spine Study
要約
目的: 本研究の目的は、地域住民を対象としたコホート研究で、有症状の腰部脊柱管狭窄症(LSS)の有病率を調べ、腰部脊柱管狭窄症と身体機能との関連を調べることである。
デザイン: ROADstudyの一部の横断研究。1009名(男性335名女性604名)を検査した。整形外科医が病歴聴取と身体所見をとった。有症状の腰部脊柱管狭窄症の診断基準は、症状と、画像所見両方を満たした患者を、腰部脊柱管狭窄症ありとした。6m歩行時間、Chair standing time, 偏脚起立時間を測定した。
結果: 有症状の腰部脊柱管狭窄症有病率は、全体で9.3%、男性10.1%、女性8.9%だった。年齢ごとの有病率の増加は、性別により違いがあった。 腰部脊柱管狭窄症有病率は、70歳以上で年齢ごと差はなかった。女性は、年齢とともに増加した。
身体機能は、6m最大歩行速度が、腰部脊柱管狭窄症と相関した。
結語: 有症状腰部脊柱管狭窄症は一般的な日本人に似たコホートでは約10%の有病率である。6m最大歩行速度は、通常の歩行速度よりも強く有症状腰部脊柱管狭窄症に関連する。