慢性腰痛と、傍脊柱筋の筋血流の関連が示唆されているように、(参考文献2)筋肉と腰痛は深い関係がある。サルコペニアとは直接関係ないかも知れないが、慢性腰痛に関する最近の知見を調べてみた。
従来、腰痛症は脊椎そのものの器質的障害が原因と考えられ、様々な原因に対する治療法が試みられたが、そのほとんどにエビデンスが無いことがわかった。近 年では、特に慢性腰痛症は、社会的、心理的要因による、いわば精神疾患の一種としての側面が注目されているようだ。
慢性腰痛に関するガイドラインは乏しいが、その中でもユーロピアンガイドランが秀逸だ。以下はそのサマリー。
EUROPEAN GUIDELINES FOR THE MANAGEMENT OF CHRONICNON-SPECIFIC LOW BACK PAIN November 2004
診断法
身体所見と病歴聴取 評価法:
トリアージを行い、脊椎の器質的疾患(感染、、腫瘍などred flag sign)、神経根性疼痛の除外を行う。予後因子(yellowe-flag)の聴取を推奨する。触診、軟部組織の評価、SLR(Lasegue)テス ト、は非特異的慢性腰痛症の診断に推奨できない。
画像評価: 画像検査(単純レントゲン、CT、MRI)、椎間板造影、椎間関節神経ブロックは、特異的な原因が強く疑われる場合以外は推奨しない。 MRIは神経根関連の症状の診断や感染や悪性腫瘍が疑われる場合に最も有用な検査法である。単純レントゲンは脊椎変形の評価に有用である。
予後因子
腰痛の回復を妨げる因子が無いか聴取する。仕事に関連する因子、精神社会的なストレス、うつ状態、経済的動機、痛みの強さと機能への影響、極端な症状の訴え、患者の治療への期待。
例・腰痛は有害だと信じているか、あるいは痛みへの恐怖心から、回避行動(動作恐怖と極端な用心深さ)をとり続けているため、そのうち車椅子生活や寝たきりになるかもしれないと思っている。
・痛みが完全に消えてからでなければ、日常生活や仕事には戻れないと考えている。
・仕事に不満があるなど仕事に関連した問題がある。
・精神的な問題(うつ状態、不安、ストレス、社会活動への興味の減退)がある。
治療法
保存治療 認知行動療法、運動療法、短期教育を行なう。腰痛教室と短期間の脊椎マニピュレーションを検討する。
薬物治療 短期間のNSAID、弱オピオイドの使用が推奨される。ノルアドレナリン作動性選択的セロトニン作動性抗鬱剤(NaSSA)、筋弛緩薬、温湿布を考慮する。 ガバペンチンは推奨しない。
侵襲的治療 温熱療法、冷却療法、腰部牽引、低出力レーザー、超音波療法、マッサージ、腰部コルセットは、 薦められない。鍼治療、硬膜外ブロック、神経根ブロック、椎間関節ブロック、椎間板内注射、トリガーポイント注射、椎間板内高周波熱凝固法、脊髄電気刺激 療法は薦められない。2年以上におよぶガイドラインに従った保存療法に失敗するか、ガイドラインに沿った治療が行なえない場合を除き、手術は薦められな い。仮に手術を行なうにしても、患者の選択は慎重でなければならなく、多くても2椎間以内の変性を対象とする。
参考文献
1. van TulderM, et al ; Eur Spine J 15 : S169, 2006
2. Sakai Y, , et al The effect of muscle relaxant on the paraspinal muscle blood flow: a randomized controlled trial in patients with chronic low back pain. Spine 2008 Mar 15;33(6):581-7
3. 腰痛白書 http://cavalleria.info/guideline.html