術後せん妄の予防と治療

術後せん妄とは

脊椎手術をはじめとして、手術を受けた患者さんのうち一定の割合で術後に認知機能が低下したり、幻想、幻聴があらわれる、攻撃的になり暴言を言うなどの精神の変調をきたす事があります。手術にかぎらずとも、重症になり集中治療室(ICU)に入るなど身体的・精神的ストレスがかかる状態で同様の症状を呈することがあります。これは、決して認知症になったわけではなく、「術後せん妄」という病態です。残念なことに医療従事者を含めてまだまだこの病態のへ理解が乏しく、「認知症になった」「本人のせい」など誤解されてしまう事があります。通常は回復可能であり、認知症とは異なります。いったんせん妄が起きると、術後の安静を守ることができないため本人の危険が増すのみならず、ご家族、看護師をはじめとする医療従事者への肉体的・精神的負担が増します。


せん妄の定義

「DSM-IV」という精神疾患診断基準では、下記の要件で定義されています。

認知機能低下  ほとんどの場合、一過性です。

急性発症、日内変動 夕方から夜間に悪化する方が多いです。

原因あり。 手術、疾患、薬剤、アルコール離脱などのきっかけが有り、そこから数日-1周間以内に発症する場合が多いです。手術をきっかけに発症したものを「術後せん妄」と呼びます。


せん妄の疫学

せん妄発症率は、

術後患者   10-50%

一般内科病棟 20-30%

長期入院病棟 20%以下


せん妄の種類

・過活動型 不穏、暴言、暴行が主体。家族、医療従事者への負担が大きい。本人にせん妄時の記憶が残る事が有り、せん妄から回復した後の本人の精神的負担も大きい。

・低活動型 活気がなくなり、食欲低下を起こす。

・混合型  過活動型、低活動型双方を引き起こしたもの。


低活動型と混合型のせん妄は気が付きにくいので注意が必要です。


せん妄のリスク因子

ICU入室患者では、下記のリスク因子が判明しています。

・認知症合併

・高血圧

・入院時の重症度

・昏睡状態


その他にも、

高齢(>70歳)、男性、アルコール、独居、腎不全、薬剤(特に睡眠剤、向精神薬)、環境の変化

などなど様々な要因が知られています。

Devlin JW, Fong JJ, Fraser GL, et al.:Delirium assessment in the critically ill. Intensive Care Med 2007


せん妄になると、何がいけないの?

 介護者や医療従事者への負担の他にも、せん妄はQOLや生命予後の悪化因子であることが判明しています。

・入院期間や集中治療の延長

・認知症になる危険が増す。

・転倒、褥瘡など入院中合併症が増える

・死亡リスクが増える。ICU患者ではせん妄が起きると死亡率が約2倍になる

といった危険があります。

 

術後せん妄の予防と治療

せん妄の予防に関しては、

早期離床、運動療法

環境整備(音楽、家族との面会)などの多面的アプローチ

といった方法があります。エビデンスレベルは弱いです。

ハロペリドール(セレネース®)の予防投与は残念ながら効果が無い、というRCTの論文があります.日本の、長寿医療研究センターからの論文です。

Fukata S, et al. Surg Today. 2014  Haloperidol prophylaxis does not prevent postoperative delirium in elderly patients: a randomized, open-label prospective trial.

 

せん妄の治療は、

・α2刺激薬;静注鎮静薬 プレセデックス®  ガイドラインで推奨されています。集中治療や、局所麻酔の鎮静のみに保険適応があり、病棟では使用しづらいです。

・ハロペリドール セレネース®、リントン® 傾眠、錐体外路症状などの合併症が有ります。注射薬は我が国ではせん妄治療のの保険適応が有ります。ただしFDAは認可しておらず、エビデンスは乏しいです。

 

せん妄の治療、予防はエビデンスが乏しいのが現状です。


せん妄予防におけるメラトニンの効果

近年、せん妄予防にメラトニン内服や、メラトニン作動薬の内服が効果があるとの論文が散見されます。次項で解説します。

 

 

せん妄のガイドライン

http://www.proce.com/res/pdf/DeliriumAssessment_monograph.pdf

 

http://www.aacn.org/wd/cetests/media/Launching%20PAD/PAD%20Guidelines%20Toolkit.pdf

米国集中治療医学会(SCCM)から発表された新しい鎮静のガイドライン、“Clinical Practice Guidelines for the Management of Pain, Agitation, and Delirium in Adult Patients in the Intensive Care Unit”。

Delirium、せん妄が患者の予後悪化につながることが明記され、評価、リスク、予防、治療に 関する推奨項目が示された。評価方法として、Confusion Assessment Method for the ICU とIntensive Care Delirium Screening Checklistが推奨され[A]、日常的なせん妄評価を行 うとしている[B]。しかし予防と治療についてエビデンスの高い方法は少なく、薬物治療より「早 期離床・運動療法」といったリハビリテーションの有用性が示されている[+1B]。

 

National Institute for Health and Care Excellence.(英国)のガイドライン

http://www.bgs.org.uk/index.php/clinicalguides/862-nicedelirium

http://www.nice.org.uk/guidance/CG103

 

 

参考:

長寿医療研究センターの術後せん妄の解説ページ



自己紹介

飛田 哲朗 Tetsuro Hida

名古屋市

脊椎外科医の仕事の傍ら、サルコペニアの研究をしています。

 

 

好きなテレビ:

未来世紀ジパング

 

池上彰さんが出る回とか、最高ですね。テレ東経済番組の面白さは安定してます。

 

好きな映画:

アメリカのSF映画。遺伝子エリートと雑草魂の葛藤がたまりません。同じアンドリュー・ニコル監督の「In Time(タイム)」もいいですね。

 

息子の難病の治療法を開発してしまう銀行家の父の、実話を元にした物語。熱意と戦略がそろえば誰でも病気を治せる可能性があるんですね。

Follow-up of 89 asymptomatic patients with adrenoleukodystrophy treated with Lorenzo's oil

論文のラストオーサーが父親。

 

好きな飲み物:


最近は第3のビールの美味しさにおどろいています。

 

 

 

リンク

朝日新聞、 「筋肉少なく肥満、高齢者の1割 名大、北海道の323人分析」(平成26年6月3日夕刊)

八雲町での疫学調査を取り上げていただきました。

名古屋テレビ UP! 注目ニュース「サルコペニア肥満」

2013年8月2日に放送された内容です。僕の研究を取り上げていただきました。とてもわかりやすくまとまっています。

 

リハビリテーション栄養・サルコペニア(筋減弱症)

サルコペニアのエビデンスが集積しています。勉強になります。

 

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JBJSの要約がまめに更新されています。抄読会のネタ探しにぴったりです。

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