思春期特発性側弯症の装具治療のエビデンス -NEJMより-

13時間以上装着で9割が手術回避

少し古い論文ですが、臨床医学雑誌の最高峰、ニューイン・グランド・ジャーナル(NEJM)に思春期側彎症の装具療法に関する質の高い論文が掲載されました。著者は雑誌「Spine」の編集長を務める大御所、Dr. Weinsteinです。 

 

RCT、前向きコホートともに装具治療が圧倒的に手術を回避する率が高く、さらに装具装着時間がながければ長いほど効果が高い事が示されました。 これまでは装具治療のエビデンスが乏しく、効果あり、効果なしの報告が入り乱れていました。今回高いクオリティのエビデンスが出たことで、自信をもって患者さんに装具治療をするめることができます。


NEJMはもともと内科系の雑誌で整形外科関連の論文が載ること自体がまれです。思春期側湾症の保存治療はプライマリケアに関わる医師全般にとっても関心が深い内容なのでしょう。内容をかいつまんで紹介します。


Effects of Bracing in Adolescents with Idiopathic Scoliosis

Stuart L. Weinstein他

N Engl J Med 2013; 369:1512-1521

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24047455


要約

背景: 進行のリスクや手術が必要になるかもしれない思春期側彎症に対する装具の効果は不明な点が多い。

方法: 多施設研究での検討。年齢、骨成長、側湾の進行度が装具治療に典型的な症例を対象とする。ランダム化試験と、プリファレンスコホートの両方を実施した。242名を対象とした。その内116名は装具治療と経過観察のランダム化比較試験を行った。126名は装具と経過観察を患者が選択した。装具治療群は一日18時間装具をつけるように指導された。プライマリアウトカムはカーブの進行が50度以上(治療失敗)と、カーブ進行無く骨成長が完了(治療成功)とした。

結果: 本試験は装具の効果があったため早期終了した。ランダム化コホートとプリファレンスコホートを検討した結果、治療成功は装具治療群72%、経過観察群は48%だった。傾向スコア(プロペンシティスコア)調整オッズ比は1.93(95%CI、1.08-3.46)。ランダム比較コホートのITT解析(intention-to-treat解析)では治療成功は装具治療群75%、経過観察群は42%、オッズ比は1.93(95%CI、1.08-3.46)




本文

思春期側わん症は、Cobb角が10度以上の冠状面の湾曲と、椎体の回旋が特徴である。側湾症は16歳以下の3%を占めるが、0.3−0.5%しか治療を要さない。50度以上のカーブは成人になってからも進行するリスクが高く、通常手術適応とされる。

2009年米国では、3600名が側湾症手術を受け、この費用(5億1400万$)は10歳から17歳の医療費において虫垂炎に次ぐ二番目である。

硬性コルセットによる側弯の治療が最も一般的である。様々なデザインの装具があるが原理は介達外力による直接的な矯正と、装具の中で脊椎を圧から逃避させる動きを用いたアクティブな矯正とがある。

これまでの研究では思春期側湾症の装具治療はカーブの進行を防ぐとされてきた。しかし、質の高い研究は乏しかった。そのため50度以上の側弯に対する装具治療の効果を経過観察群と比較する他施設研究であるBracing in Adolescent Idiopathic Scoliosis Trial (BRAIST)を計画した。


【方法】

米国とカナダの25施設対象。 2007年から始まったが、ランダム化試験を希望する患者が予想より少なかったため、2009年以降はpreference cohortも検討対象に加えた。

最終的にはランダム化コホートとプリファレンスコホートが併存した。

倫理委員会承認、National Institute of Ar- thritis and Musculoskeletal and Skin Diseases.がモニタリングした。


【患者背景】

参加基準

・ 10歳から15歳

・ Risser grade 0,1,2

・ Cobb角(最大)20−40度

除外基準

・ 過去の側弯既往歴


ランダム化に同意しなかった患者は、フォローアップされた。

・ コンピュータによるランダム化。カーブタイプ(胸椎カーブ単独 vs その他)


【治療方法】

観察群は、特に治療しなかった。 装具群は、胸腰椎の硬性コルセットを着用した。少なくとも18時間/日着用する。 温度記録器(StowAway or TidbiT data logger, Onset Computer)で28度以上を着用とした。

治療者と患者は治療法に関してブラインド化していない。レントゲン読影はブラインド化した。


【フォローアップ】

6ヶ月ごとにレントゲンと、臨床、装具士、および自己による評価を行った。有害事象とqol評価をモニターした。装具の種類(ボストン、Wilmingtonなど)を記録した。

【アウトカム】

主要アウトカム: 50度以上のカーブの進行(治療失敗) もしくは 50度未満のカーブでの骨成長完了(女性Risser4、男性Risser5とSanders digital maturity stage7(全ての指骨の骨端線閉鎖))(治療成功)。

Pediatric Quality of Life In- ventory (PedsQL)と generic quality-of-life instrumentで評価。

その他: 健康と機能、セルフイメージ、脊椎に関する認識などを評価した。

【統計】

・サンプルサイズアナライシス

・プロペンシティースコア分析を非ランダム群に行った。要素は、Cobb角、年齢とした。

・ 中間解析(Prespecified interim analyses)

・ 装着時間は4分位


【結果】

初回の中間解析(2012)は、178名を検討し、2回目(2013)は230名を検討した。効果量による研究中止のp値は0.00821とされた。調整後オッヅ比は2.03(P=0.0197)で装具群の治療が有効であった。P値は及ばなかったものの、その他の解析(ITT解析、装具治療時間の解析)が装具治療の有効性を支持するものだったため、中間解析委員会はスタディの中止を勧告し、データを凍結した。


患者背景

1183人を検討し、1083人が参加基準を満たした。383名が参加を希望し、155名がランダム化され、228名が治療を自分で選択した。


主要分析

242名を分析した。 ランダム化コホート116名、非ランダム化コホート126名。

非ランダム化に女性が多く、診断から試験に参加するまでの期間、側弯に気がついた人物、apexの回旋角に有意差があった。

 146名が装具治療をし、96名が経過観察をした。装具群は慎重に差があった。プロペンシティースコアモデルは、身長、コブ角、年齢、ランダム化有無を用いて調整した。平均フォロー期間は経過観察群で21ヶ月、装具群で24ヶ月だった。

治療成功の確率は、装具群で72%、経過観察群で48%だった。傾向スコアとフォローアップ期間で調整した装具治療成功のオッヅ比は1.93であった。


INTENTION-TO-TREAT(ITT)解析

ランダム群のうち51名が装具をつけ、65名が経過観察した。後弯のほか、ベースラインに有意差はなかった。治療成功の確率は、装具群で75%、経過観察群で42%だった。オッヅ比は4.11。NNT(number needed to treat)は3.0。すなわち3名装具治療をすれば1名の手術を防ぐことができる。相対リスク減少は56%。


装着時間との関連

装具患者の多く(68%)はボストン型を装着していた。116名の体温データを得た。最初の6ヶ月は平均12.1時間つけた。装着時間は有意に成功率に影響した。最も低い装着時間の群(6時間以下)は治療成功率41%で経過観察群と近かった。12.9時間以上装着した群では90−93%と成功率が高かった。


QOLと有害事象

Qolスコアは、各群ベースラインと最終フォロー時で差がなかった。有害事象に両群間に差はなく、もっとも多い有害事象の腰痛にも差がなかった。装具群で1名うつ病で入院した。皮膚障害が装具群に12名(8%)発生した。


【考察】カーブ進行のリスクの高い思春期側わん症に対する装具治療の効果が認められた。また、装具の装着時間と治療の成功率が関連することがわかった。これらは、従来の報告と矛盾しない結果だった。

我々は、治療失敗の確率は15%—30%と予想していた。実際は装具治療群は、25%、観察群は58%が失敗しており予想より高かった。従来の報告では、装具治療の失敗の確率が0-79%、経過観察は10-38%とばらばらの結果だった。ばらついた理由は、症例が統一されておらず、手術適応が統一されていない、結果評価がブラインド化されていない、ことが理由であろう。本研究の強みは、装着時間の評価、盲検化、結果の客観的な評価、である。

BRAIST研究はランダム化比較試験で始まったが、多くの家族が自分の好みで治療法を選択したいのだと気がついた。その為試験参加率が低く、ランダム化していない群を研究に組み込んだ。そのため、当初の解析がITTではなく、As-treat解析になってしまった。

ランダム化していないがためのバイアスは僅かであろうが否定はできない。その為傾向スコア解析を行った。 さらに、装着時間との関連の検討はカーブタイプや柔らかさ、装具の種類によって影響される。ITT解析の結果はastreat解析と似ていため、装具が側湾進行を防ぐ強い根拠となる。

今回の発見はすぐにでも臨床応用ができる。今回の解析では48%の患者は無治療でも手術に至らず、あまり装具を付けなかった患者の41%でも手術に至らなかった。現在の装具の適応は広すぎるのかもしれない。進行が予想される症例に絞ることが重要だ。

【結語】

装具は進行リスクの高い思春期特発性側弯症を防ぐ効果があり、長い時間つけたほうが効果が高い。


 2014-11-14

自己紹介

飛田 哲朗 Tetsuro Hida

現在米国に留学中。

脊椎外科医の仕事の傍ら、サルコペニアの研究をしています。

 

 

好きなテレビ:

未来世紀ジパング

 

池上彰さんが出る回とか、最高ですね。テレ東経済番組の面白さは安定してます。

 

好きな映画:

アメリカのSF映画。遺伝子エリートと雑草魂の葛藤がたまりません。同じアンドリュー・ニコル監督の「In Time(タイム)」もいいですね。

 

息子の難病の治療法を開発してしまう銀行家の父の、実話を元にした物語。熱意と戦略がそろえば誰でも病気を治せる可能性があるんですね。

Follow-up of 89 asymptomatic patients with adrenoleukodystrophy treated with Lorenzo's oil

論文のラストオーサーが父親。

 

好きな飲み物:


最近は第3のビールの美味しさにおどろいています。

 

 

 

リンク

朝日新聞、 「筋肉少なく肥満、高齢者の1割 名大、北海道の323人分析」(平成26年6月3日夕刊)

八雲町での疫学調査を取り上げていただきました。

名古屋テレビ UP! 注目ニュース「サルコペニア肥満」

2013年8月2日に放送された内容です。僕の研究を取り上げていただきました。とてもわかりやすくまとまっています。

 

リハビリテーション栄養・サルコペニア(筋減弱症)

サルコペニアのエビデンスが集積しています。勉強になります。

 

整形外科 論文ナナメ読み (JBJSなどなど)

JBJSの要約がまめに更新されています。抄読会のネタ探しにぴったりです。

整形外科医のための英語ペラペラ道場

英語論文を書く際の道しるべです。