慢性腰椎神経根症に対する仙骨硬膜外ブロックは無効である。

腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、はたまた非特異的腰痛症などに対して、整形外科診療所でしばしば施行される 仙骨硬膜外ブロックに関する論文が、2011年にBMJというイギリスの医学雑誌に発表されました。 12週以上神経根症状の持続した患者を対象とした無作為化比較試験です。ステロイド、生食ともに無効であったとの結果でした。臨床経験の印象と一致していますよね。以下に内容を抜粋して引用します。

 

Effect of caudal epidural steroid or saline injection in

chronic lumbar radiculopathy: multicentre, blinded,

randomised controlled trial

BMJ 2011;343:d5278 doi: 10.1136/bmj.d5278 IF13.4

Iversen T, Solberg TK, Romner B, Wilsgaard T, Twisk J, Anke A, Nygaard O, Hasvold T, Ingebrigtsen T.

Source Department of Rehabilitation, University Hospital of North Norway, 9038 Tromsø, Norway

 

 

「慢性腰部神経根症に対する仙骨硬膜外ブロック、他施設盲検化無作為化比較試験による比較」

 

硬膜外のステロイドや、生食は、急性期の腰椎神経根症に、短期間効果があるかも知れないと言われている。しかし、亜急性期や、長期の効果は不明である。今回のRCTの結果、仙骨硬膜外の生食注射とステロイド注射は、慢性的な腰部神経根症に効果がなく、12週以上疼痛が持続する患者には勧められない。

 

 

 

目的:生涯の腰部神経根症の有病率は男性5.3%、女性3.7%。椎間板突出が原因のいわゆるヘルニア場合、2348%は自然と軽快するが、30%は、1年以上症状が残存し、20%が仕事ができなくなり、5-15%に手術を要する。

機械的刺激により神経根局所の炎症性サイトカインが上昇し、異所性の神経発火が生じる。

1953年以降、硬膜外にステロイド注射が行われるようになり、ステロイドがこのような炎症を抑えると考えられてきた。しかし、その効果は、相反する報告がなされてきた。短期間の効果を認める報告もあれば、プラセボと変わらないとする報告もある。最近の報告は、硬膜外のステロイドもしくは生食は有効とする物が多い。

硬膜外注射の一年後フォローでは、3643%程度有効とされるが、自然経過と大差がない。それでも、たくさんの仙骨硬膜外ブロックが世界的に行われている。

今回は慢性腰椎神経根症に対する仙骨硬膜外ブロックによる、ステロイドもしくは生食注射の効果を6週、12週、52週で評価する。

デザイン:マルチセンター、盲検化、ランダム化比較試験。北ノルウェイ地区(114万人)の様々な専門分野(一般開業医、脳神経外科、整形外科、カイロプラクティック、理学療法士、)の外来患者を5箇所のノルウェーの病院に集め、行った。慢性腰部痛の定義: [神経根の範囲に一致した感覚、反射、運動障害を伴う、腰下肢痛。12週以上持続。] 偏側の症状のある患者を募集。

対象2005年から2009年の間の、12週以上の461名が参加を検討し、神経内科医が診察を行い、その内328名が除外された。除外基準は、馬尾症候群、麻痺、重度の痛み、脊椎の注射、手術の既往、変形、妊娠、授乳、ワーファリン治療、NSAID治療中、BDM30、コントロール不良の精神疾患、重度の合併症。MRIで巨大なヘルニア、脊柱管の狭窄、腫瘍等も除外された。さらに、Studyが始まるまでに症状が改善したヒトも除外され、結局は109名を検討した。 

インターベンション: コンピューターによるランダム化を行い、プラセボとして、生食2ml皮下注。30mlの生食仙骨硬膜外注射もしくは、40mgトリアムシノロン・アセトニド(ケナコルト懸濁液と同成分だが、懸濁液は、国内硬膜外適応なし。)2週空けて、2回注射。麻酔科医が、手技を行った。患者、評価者にはブラインド化して行った。

理学療法士、医師が6週、12週、52週に評価した。

メインアウトカム評価: プライマリアウトカム: ODI、 セカンダリアウトカム:EQ5D (QOL)、 VAS、腰痛、下肢痛

解析方法: ITT解析。 χ二乗検定の他、線形混合モデルを用いて、時間的要素を補正。 背部痛、下肢痛の期間、スタディ参加前の休業期間を補正して評価。スタッティクパワーを80%としたパワーアナライシスで、各グループ41名以上の参加者が必要だった。 

 

結果: Fig1最終的に116名が参加した。初回注射までに改善した5名は注射を受けなかった。初回の注射の痛みのため、2回目の注射を希望しなかったものが6名いた。患者背景をTable3に示す。L4/5L5/Sの椎間板ヘルニアを認める症例が多かった。アキレス腱反射のみ、生食硬膜外注射グループに多かったが、その他は差が無かった。

全例侵襲後に改善を認めたが、ODI, VAS, EQ5Dは群間に差が無かった。病院間の差も無かった。分析は、下肢痛腰痛の罹病期間、病気の休業期間で補正しても、同様に差がなかった。

FABスコアは、52週時点で有意に改善していたが、群間に差が無かった。

15名が、期間中に手術を受けたが、群間に差が無かった。ITTなので、手術患者も含めて評価した。

 

最終時、27名に神経根症状が残存していた。

 

考察: 仙骨硬膜外ブロックには充分なエビデンスがなく、どのくらいの用量が良いかもわかっていない。 これまで5つのRCTがあり、一つを除き、効果が無いとするものであり、そのひとつも、ODIに充分な改善(8点のみ)があったとは言えなかった。

たくさんの量の注射をすれば、炎症物質を洗い流せると考えられてきたが、今回の研究では、皮下注と硬膜外に差が無かった。おそらくは、自然経過と変わらないのであろう。

リミテーション: 椎間孔注射(神経根ブロック)を検討していない。

 

結語:仙骨硬膜外の生食注射とステロイド注射は、慢性的な腰部神経根症には勧められない。

イントロダクション

慢性腰部痛の定義: [神経根の範囲に一致した感覚、反射、運動障害を伴う、腰下肢痛。12週以上持続。]

 

 

 Oswestry Disability Index 世界で最も広く使用されてきた患者立脚型の腰痛疾患に対する疾患特異的評価法のひとつ。

FABQfear avoidance beliefs questionnaire:恐怖回避信念の質問用紙。ISPA。心理的因子、とくに痛みに関する非機能的信念や痛みへの恐れが、慢性の運動器痛(筋・骨格系の痛み)の進展に鍵となる役割を果たしている。

 

神経根ブロックはどうか?

神経ブロックは最も一般的な侵襲的診断方法である。理論は単純であり、ある解剖学的な構造が痛みの発生源である場合、その部位を支配している感覚神経を麻酔する事で少なくとも一時的な除痛を得させる事が出来るというものである。頚椎と腰椎の椎間関節を支配する感覚神経のブロックについてその理論と構造学的な妥当性が証明されてきた(6)。選択的な神経根ブロックは、神経根由来の痛みの確認において感度が良く、特異性が高いとのエデンスがある(3)椎間孔への選択的神経根ブロックは相反する結果であるが、様々な報告によると、腰椎神経根性疼痛に対しては短期間の効果はあるようだ。ステロイドについては、局所投与でも、全身的投与でも肩関節の痛みに同等の効果をもたらしているため(4)現在広く使用されている運動器痛に対する局所的なステロイド注射が有効であるかは懐疑的である。

 

 2010 International Association for the Study of Pain

ISAP

 Dooley JF, McBroom RJ, Taguchi T, Macnab I. Nerve root infiltration in the diagnosis of radicular pain. Spine 1988;13:79–83.

Lord SM, Barnsley L, Bogduk N. The utility of comparative local anesthetic blocks versus placebo-controlled blocks for the

diagnosis of cervical zygapophysial joint pain. Clin J Pain 1995;11:208–13.

 

自己紹介

飛田 哲朗 Tetsuro Hida

現在米国に留学中。

脊椎外科医の仕事の傍ら、サルコペニアの研究をしています。

 

 

好きなテレビ:

未来世紀ジパング

 

池上彰さんが出る回とか、最高ですね。テレ東経済番組の面白さは安定してます。

 

好きな映画:

アメリカのSF映画。遺伝子エリートと雑草魂の葛藤がたまりません。同じアンドリュー・ニコル監督の「In Time(タイム)」もいいですね。

 

息子の難病の治療法を開発してしまう銀行家の父の、実話を元にした物語。熱意と戦略がそろえば誰でも病気を治せる可能性があるんですね。

Follow-up of 89 asymptomatic patients with adrenoleukodystrophy treated with Lorenzo's oil

論文のラストオーサーが父親。

 

好きな飲み物:


最近は第3のビールの美味しさにおどろいています。

 

 

 

リンク

朝日新聞、 「筋肉少なく肥満、高齢者の1割 名大、北海道の323人分析」(平成26年6月3日夕刊)

八雲町での疫学調査を取り上げていただきました。

名古屋テレビ UP! 注目ニュース「サルコペニア肥満」

2013年8月2日に放送された内容です。僕の研究を取り上げていただきました。とてもわかりやすくまとまっています。

 

リハビリテーション栄養・サルコペニア(筋減弱症)

サルコペニアのエビデンスが集積しています。勉強になります。

 

整形外科 論文ナナメ読み (JBJSなどなど)

JBJSの要約がまめに更新されています。抄読会のネタ探しにぴったりです。

整形外科医のための英語ペラペラ道場

英語論文を書く際の道しるべです。