「急性の片側上肢の激痛としびれがありその後下垂手などの運動麻痺が出現した」
このような病歴を聞くと、脊椎外科医はまず頚椎神経根症(頚椎椎間板ヘルニア)を疑います。頚椎MRIをオーダーし、NSAIDなどの治療を開始すると思います。
しかし、頚椎MRIで何も所見が無い場合はどうしましょう??
今回は、頚椎椎間板ヘルニアによく似た症状を呈する末梢神経疾患、神経痛性筋萎縮症(Neuralgic Amyotrophy)という病気を紹介します。
病態
典型例では、急性の重度の上肢痛に始まり直後から上肢の多発する運動麻痺を伴う末梢神経の疾患です。Parsonage Turner syndrome や、特発性腕神経叢炎とも呼ばれます。自己免疫が病態に関わるとされ、ウイルス感染(肝炎など)に続発して発症することも報告されています。病態が周知されていないせいもあり、実際の診療現場では本疾患に気が付かないこともあります。
多くは典型例ですがしびれのないもの、腰神経叢症状中心のものなど、様々なフェノタイプがあり、診断を難しくする一因でもあります。
診断のポイント、神経痛性筋萎縮症の典型症状
・ 痛み止めの効かない重度の肩もしくは上腕の痛み。
・ 夜間に悪化、安静時痛有り。
・ 多発性の末梢神経症状。片側が多い。両側症状があっても、対称性ではない。
検査
診断のために、神経伝導速度検査、筋電図検査、腕神経叢MRIなどの検査を行います。電気生理学的検査で脱神経所見が認められることがありますが、正常の場合もあるとのことです。腕神経叢MRIでは、神経炎所見を認める場合があります。
身体所見のポイント
・ 肩と上半身の筋萎縮をチェック
・ 肩の動きの異常をチェック
・ 上肢の筋量の左右差をチェック
神経痛性筋萎縮症(Neuralgic Amyotrophy)診断基準
下記のような診断基準が提唱されていますが、基準は明確ではなく結局は他の疾患(頚椎疾患、脊髄炎、motor neuron disease)の除外をした上で、専門医の判断で診断します。
1. 急性、亜急性発症
2. NRS10点中、7点以上の初期の疼痛
3. 近位腕神経叢、翼状肩甲をともなう多原性の神経症状
4. 再発しない(Monophasic course)、緩徐に回復
5. 外傷、悪性腫瘍、糖尿病、放射線治療は除外
治療
治療には、ステロイドや免疫グロブリン大量療法が試みられています。早期診断が難しいことも有り、発症初期からの治療が行えない場合が多いです。
神経症状の予後は必ずしも良くなく、治療法は確立していません。
予後
回復には1-2年かかり長期間症状が残ることもあり、就労やQOLに大きく影響します。
参考文献: 福島和広、神経痛性筋萎縮症(neuralgic amyotrophy)の臨床像、臨床神経学 2014
Nens van Alfen, et al. Incidence of Neuralgic Amyotrophy (Parsonage Turner Syndrome) in a Primary Care Setting - A Prospective Cohort Study. PLOS one. 2015
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神経痛性筋萎縮症(Neuralgic Amyotrophy)の発生率は年間1000人に1人