小児のCT検査で発がんリスクが24%上昇する

脊椎外科領域では、側弯症の術前検査など小児に対してCT検査を行うことが少なからずあります。もちろんむやみに検査を行わないように適応を考えていますが、実際にどの程度の医療被曝のリスクがあるのかは不明でした。今回CT被曝の発がんリスクを調査した大規模スタディを紹介します。

Cancer risk in 680 000 people exposed to computed tomography scans in childhood or adolescence: data linkage study of 11 million Australians

BMJ 2013;346:f2360 (Published 21 May 2013)

John D Mathews, et al.


背景

近年CTの撮影回数が増えており、発がんに関する懸念が1980年台からあがっていた。

CTからのイオン化放射線照射は、典型的には5-50mGyである。最近まで、低照射量のため、大きなコホート研究が必要で現実的ではないと考えられていた。 そのため、照射のリスクは、日本の原爆生存者の生涯の発がんリスク研究のような、大線量をあびた人の発がんリスクから推計する報告しかなかった。最近は、Lancet誌から、1985年から2002年の間のCT被爆者の白血病と脳腫瘍のリスクに関連するとの報告があったが、その結果の信頼性にはまだまだ疑問を呈する専門科もいる。さらに様々な悪性腫瘍全体のリスクは不明である。

オーストラリアではCTは一般的であり、メディケア国民保険のデータを利用することが可能である。本研究では癌の発生率を68万人以上の0歳から19歳までのCT被爆者と、1000万人以上の被曝していないコントロールとを比較した。


方法

1985年から2005年の間にオーストラリアの公的保険メディケアの電子カルテの記録のある、0歳から19歳の1090万の患者を対象とした。(Fig1を参照。)研究期間中にCTを測定したものをコホート組み入れた。national cancer recordsとリンクして、2007年までに癌と診断された患者を同定した。

メインアウトカム

癌の診断目的のためのCT検査を除外するため、1年間の除外期間を設けた。すなわち、CTから1年間以降に診断された癌の発生率を、CTを行っていない患者と比較した。

リミテーションは、海外での被曝は把握できず、高度医療機関の多くも保険外診療を行うため不明である。また、これまでの様々なCT被曝量の研究結果から、平均の骨髄と脳の被曝量を推計した。



結果

1000万人以上がコホートに含まれた。そのうち、68万人がCTを1回以上検査した。

平均9.5年のフォローを行い、全部で6万名に癌が発生した。CTを一回以上受けた68万人の患者のうち、3150名が癌になった。 

全体の発がんリスク

Table4.を参照。年齢、性別、生まれた年で調整した後の癌の発生率は、CT暴露群の方が24%多かった。(IRR1.24、P<0.001)。回数依存的に癌の発生率は上昇した。Fig2.を参照。 CTを一回撮るごとにIRRは0.16ずつ増加した。 年齢が若いほどガン発生のIRR(incidence rate ratio )は高かった。 全悪性腫瘍発生率は、CTスキャンを受けたことがある人は、10万人あたり9.38人/年、増加した(10万人あたり約40人/年vs10万人あたり約50人/年)。


癌ごとの発がんリスク

Table4を参照。脳腫瘍がもっともIRRが高く、2.13倍だった。脳腫瘍を除外しても、発がんリスクは高かった。さらに脳腫瘍は最初の照射後1-4年が初がんのリスクが高く、それ以降は徐々に低下した。しかし、15年後以降も発がんを起こすリスクは、コントロールとくらべても上がっていた。脳腫瘍を除く癌でも同様に、被曝から15年たってからも発がんリスクが高かった。 社会的・経済的背景は発がんに関係無かった。


照射量

一回あたりの平均照射量を推計すると赤色骨髄は4.5mSv、脳は40mSvだった。


考察

本研究はこれまでの最大規模の検討である。幼少期のCT検査を受けた患者において発がんの可能性が高くになることを初めて示した。

しかし、本研究はランダム化試験ではないので、CTそのものが発がんリスクになるとはいいきれない。早期の癌の症状や遺伝的素因が関係しているかも知れない。とくに脳腫瘍は発見される数年前から症状があることもあり、バイアス(reverse causation, 逆の因果関係)がかかり易いかもしれない。実際に被曝した直後の発がんリスクが高かった。その為、脳腫瘍を除外して検討したが、同様に発生率が高かった。更には、10年以上たってからも発がんリスクが上昇していたため、やはりそういったバイアスの影響は少ないと考えられる。

・ CTスキャンの回数に応じて発がんリスクが上がる。

・ 他の報告と同様に被爆時の年齢が若いほど発がんリスクが高い。

・ 他の報告と同様に男性より、女性の方が被曝の影響が大きい。

・ 被曝用量に応じて発がんリスクが上がる。

といった事から、バイアスの影響よりはCTの被曝により発ガンリスクが上がったと考えられた。


リミテーション

CT検査すべてを把握しているわけではない。

CT撮像条件は不明である。

撮影失敗での再撮影は不明である。


本研究終了時でも、ほとんどの研究参加者は40歳代である。一生涯の発がんのリスクが上がるかもしれない。


結語

臨床医はCTのリスクとビネフィットを考えて、検査をするかどうかを決定しなければならない。しかし客観的な検査実施基準が用いられないことがしばしばある。例えば軽症頭部外傷、虫垂炎疑いにおいて、経過観察、エコー、MRIよりもCTが取られることがある。特に頭部外傷における頭部CTは幼少期のCT検査の大部分を占める。放射線科医以外の臨床医、患者とその家族は、CTのリスクを把握し、適切な検査実施基準を守り、なるべく低い線量で検査を行うべきだ。



要約

目的

診断目的のCT検査の被爆後の小児、思春期患者の発がんリスクを検討する。

デザイン

一般住民コホートの、データリンケージ研究

コホートメンバー

1985年から2005年の間にオーストラリアの公的保険メディケアの電子カルテの記録のある、0歳から19歳の1090万の患者を対象とした。研究期間中にCTを測定したものをコホート組み入れた。national cancer recordsとリンクして、2007年までに癌と診断された患者を同定した。

メインアウトカム

CTから1年間以降に診断された癌の発生率を、CTを行っていない患者と比較した。

結果

全部で6万名のがん患者がいた。CTを一回以上受けた68万人の患者のうち、3150名が癌になった。 

平均9.5年のフォローを行った。年齢、性別、生まれた年で調整した後の癌の発生率は、CT暴露群の方が24%多かった。(IRR1.24、P<0.001)。回数依存的に癌の発生率は上昇し

CTを一回撮ることによりIRRは0.16増加した。年齢が若いほどガン発生のIRR(incidence rate ratio 

)は高かった。 全悪性腫瘍発生率は、CTスキャンを受けたことがある人は、10万人あたり9.38人/年、増加した(10万人あたり約40人/年vs10万人あたり約50人/年)。一回あたりの平均照射量を推計すると4.5mSvだった。

結語

CT検査後の発がん率増加は、X線照射によるものだった。発がんリスクはフォローアップ終了時においても高いため、一生涯の発がんリスクは不明であった。現代のCTの被曝量は1985−2005の時代と比べて低いことが予想される。しかし、現在でもCTにはある程度の発がんリスクがあるだろう。将来はCTの適応をガイドラインで定め、最も低い線量で検査を行うべきだ。




Relative Risk: Rate Ratio、Risk Ratio、さらにOdds Ratioの全てをさす語で混乱を招く。

イオン化放射線: エネルギーの流れでは視覚で認識出来る太陽光の可視波長部分も仲間であるが、物質に当たったとき軌道電子をたたき出して物質をイオン化する作用のあるエネルギーの流れをイオン化放射線、略して放射線と言う。太陽可視光線はエネルギ—が低く、イオン化放射線に入らない。 


自己紹介

飛田 哲朗 Tetsuro Hida

名古屋で脊椎外科医の仕事の傍ら、サルコペニアの研究をしています。

2017年-2018年 アメリカのサンディエゴに、家族連れで臨床留学しました。 

 

好きなテレビ:

未来世紀ジパング

 

池上彰さんが出る回とか、最高ですね。テレ東経済番組の面白さは安定してます。

 

好きな映画:

アメリカのSF映画。遺伝子エリートと雑草魂の葛藤がたまりません。同じアンドリュー・ニコル監督の「In Time(タイム)」もいいですね。

 

息子の難病の治療法開発を試みる銀行家の父の、実話を元にした物語。熱意と戦略がそろえば誰でも治療法開発に携われる可能性があるんですね。

Follow-up of 89 asymptomatic patients with adrenoleukodystrophy treated with Lorenzo's oil

論文のラストオーサーが父親。

 

 

NYのイタリアンレストランのある一夜が舞台。料理漫画の傑作「バンビ〜ノ!」全巻がこの1本に詰め込まれたような中身の濃さ、事件だらけです。イタリア料理好きにはたまらない数々の料理、ガーリックオイルが恋しくなります。

 

好きな飲み物:


最近はアメリカのマイクロブリュワリーと呼ばれる小規模ビール工房の地ビールにはまっています。

 

サンディエゴにあるBallast Point という醸造所のSculpin (Indian Pale Ale)というとても味が濃くてフルーティな種類のビールがお気に入りです。

 

 

 

リンク

朝日新聞、 「筋肉少なく肥満、高齢者の1割 名大、北海道の323人分析」(平成26年6月3日夕刊)

八雲町での疫学調査を取り上げていただきました。

名古屋テレビ UP! 注目ニュース「サルコペニア肥満」

2013年8月2日に放送された内容です。僕の研究を取り上げていただきました。とてもわかりやすくまとまっています。

 

リハビリテーション栄養・サルコペニア(筋減弱症)

サルコペニアのエビデンスが集積しています。勉強になります。

 

整形外科 論文ナナメ読み (JBJSなどなど)

JBJSの要約がまめに更新されています。抄読会のネタ探しにぴったりです。

整形外科医のための英語ペラペラ道場

英語論文を書く際の道しるべです。

整形外科医のブログ

整形外科臨床にとどまらず経済学にも詳しい記事が参考になります。