不眠症治療薬であるメラトニン作動薬がせん妄予防に効果があるとの論文を紹介します。急性期入院患者のせん妄発症を10分の1に抑えるという、圧倒的な効果です。日本発のRCTです。ラメルテオンは副作用が少なく、手術患者にも有用かもしれません。
Hatta K, et al. JAMA Psychiatry.2014 Apr;71(4):397-403.
Preventive effects of ramelteon on delirium: a randomized placebo-controlled trial.
要約
重要性: これまでせん妄予防に有用な方法はなかった。
目的: メラトニン作動薬であるラメルテオン(ramelteon、商品名ロゼレム)は、せん妄予防に効果があるか検討する。
方法:多施設、評価者の盲検、無作為化プラセボ比較試験。ICUと急性期病棟を対象。4つの大学病院と一つの総合病院。65−89歳を対象。重症の新規入院患者、経口摂取可能な患者が対象。生命予後が48時間以内の人を除外。
侵襲: 67名の患者をランダム化して封筒法にて割付。ラメルテオン8mg、33名と、プラセボ、34名を毎晩、7日間投与した。
結果: せん妄の発症率は、ラメルテオン群 vs プラセボ群 = 3% vs 32%;P=.003。RRは0.09。 リスクファクターで調整後、ラメルテオン群はせん妄の発生率が少なかった。(OR0.07、P=0.01)。カプランマイヤーで、せん妄発生までの期間は、ラメルテオン群で6.94日、プラセボで5.74日だった。ログランク検定でも、ラメルテオン群がプラセボ群よりもせん妄発生率が少なかった。
結語: ラメルテオンはせん妄予防効果がある。せん妄における神経伝達のメラトニンの作用を示唆している。
本文
背景
これまでも、メラトニンの投与がせん妄に有効であるとの報告があった。また、ラメルテオンの予防投与が有効とするケースシーリーズがあった。高齢救急入院患者におけるせん妄予防効果をRCTで調べた。
対象
重篤な身体疾患で新規に入院した経口内服可能な65-89歳の患者。48時間以内に退院する、または生命予後が48時間以内と考えられる患者は除外。
1126名が登録、 1059名が除外(瀕死の重症、経口摂取不可、早期退院、精神疾患など)。67名がランダム化されて検討された。ICU 24人、救急病棟43人)中。
脳卒中21人、感染症12人、骨折14人、心不全/心筋梗塞8人、その他12人
認知症の既往は13人、せん妄の既往は5人
治療介入
ラメルテオン8mg vs プラセボ。 毎晩21時に内服。
不眠時には、アタラックスPを内服。
せん妄の判定
・ 精神科医
・ DSM-IV, DRS-98 14.5点
・ 入院初日から7日間。
評価項目
APACHEIIスコア=急性生理学的スコア+年齢点数+慢性疾患状態の点数。最小スコアは0,最大スコアは71。 スコアの上昇は,入院中の死亡リス クの上昇と関連する。
Charson comobidity score 合併症のスコア
DRS-R98 せん妄のスコア
結果
せん妄の発症率は、ラメルテオン群 vs プラセボ群 = 3% vs 32%;P=.003。RRは0.09。実に10分の1の発生率であった。
年齢、認知症、せん妄既往、感染症かどうかのリスクファクターで調整後でも、ラメルテオン群はせん妄の発生率が少なかった。(OR0.07、P=0.01)。カプランマイヤーでの解析でもラメルテオンは有効だった。
睡眠障害の発症率は両群で差がなかった。
考察
ラメルテオンの効果は、これまで報告されたメラトニン0.5mgの効果(メラトニン12% vs プラセボ31%)よりも高かった。 ラメルテオンは、メラトニンの6-3倍の強さでメラトニン受容体1(MT1)、メラトニン受容体2(MT2)に結合する。したがって、メラトニンのトライアルよりも96-48倍の投与量に相当する。このため、ラメルテオンがより効果があったと考えられた。
MT1,MT2への効果がせん妄予防に関連したと考えられた。メラトニンがせん妄の神経伝達に有益な作用をもたらしているかも知れない。MT1受容体は視交叉上核の発火を著名に阻害する。MT2受容体は、サーカディアンリズムの時間をずらす効果がある。せん妄の原因ははっきりしていないが、メラトニンの作用の障害が重要かもしれない。
メラトニンの分泌は高齢者で減少している。ラメルテオンは高齢者の不眠に効果があるが、今回の研究では睡眠障害に効果はなかった。
また、ラメルテオンは安全性の高い薬剤であり、高齢者にも投与が可能である。
本研究の強み:高い参加率、実臨床に沿ったデザイン。
リミテーション:サンプルサイズ、シンプルブラインド
結語:
ラメルテオンはせん妄予防効果がある。せん妄における神経伝達のメラトニンの作用を示唆している。
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